このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
「借金は終わったと思っていたのに、督促が突然届いた」という方は多いです。
督促は借りた貸金業者から届くこともあれば、違う貸金業者から届くこともあります。滞納により、借金が債権回収会社などに移っていることもあります。
5年以上経っていると、借金を貸金業者に返す義務は時効で消滅することがあります。借金の時効消滅といいます。「借金の消滅時効が成立した」というのも同じ意味です。
借金が時効消滅する条件は、大まかにいえば次の2つです。
以下、借金が時効になる条件について、詳しく見ていきましょう。
なお、本コラムで念頭に置いているのは、個人から借りた借金ではなく、貸金業者から借りた借金についてです(銀行、カード会社、消費者金融など)。
(備考)消滅時効については平成29年民法改正で変更があり、改正前から大きく変わった点があります。その点も含め、本コラムではできるだけ分かりやすさを重視して説明していきたいと思います。その代わり内容の正確性が損なわれることもあるでしょうが、悪しからずご容赦ください。
貸金業者との契約では、ほとんどの場合、「滞納したら借金残額をまとめて一括返済しなければならない」ということになっています。滞納翌月に2ヶ月分払えばよいわけではなく、残り全額を一括で支払うことになるわけです。
(備考)実際には、多少遅れたくらいであれば、一括返済を求められずに済むことも多いです。
借金が時効となる条件の1つは、一括返済しなければならなくなった日から一定期間が経過していることです(=時効期間満了)。一定期間というのは、原則として5年です。
(備考2)借入先や契約内容によっては、残額一括請求にならず、時効期間を個別に考える場合もあります。
貸金業者から借りた借金の場合は、おおまかに言えば支払期限の翌日から5年で時効期間満了となります。「業者に最後に返済してから5年」「業者に5年以上返していない」などと表現することもあります。
(備考3)いずれにせよ分かりやすさ優先でおおまかな説明をしているもので、厳密なものではありませんのでご注意ください。
消滅時効は、10年経たないと認められない場合もあります。
たとえば判決や支払督促を取られている場合が典型です。「もう時効だろうと思って時効援用をしてみたら、実はまだ時効期間が満了していなかった(消滅時効に必要な期間が過ぎていなかった)」という場合もありえます。
時効期間は、期限の利益を喪失した日の翌日=一括返済しないといけなくなった日の翌日からカウントすることになります。
「期限の利益」というのは、「借金をいついつまで返さなくてよい」という利益のことです。借りた人が期限の利益を失うと、貸金業者としては「一括で今すぐ払え」と請求できることになります。
貸金業者から借金をする時の契約書では、ほとんどの場合、「1回でも支払いを怠った場合には、全額について当然に期限の利益を失う」という内容が書かれています(期限の利益喪失約款)。そのため時効期間は、多くの場合、滞納日翌日からのカウントとなります。
(備考4)貸主が請求したら期限の利益を失う、とされている場合もあります。この場合には、業者が請求した日の翌日から消滅時効期間をカウントします。
「自分の借金が、時効期間が満了しているのかどうか知りたい!」という気持ちは分かりますが、貸金業者に「私が最後に返済したのはいつ?」などと問い合わせるのは、お勧めできません。
貸金業者からすれば、全く返済のなかった(督促しても応答のなかった)あなたから珍しく連絡があったのですから、これは願ってもないチャンスです。
連絡したことでかえって請求が激しくなってしまったり、問い合わせだけで済まそうと思ったのにそのまま債務承認させられて時効が認められなくなったりする可能性があります(藪蛇になる)
借金の時効期間が満了しているかどうかを、手元の資料で確認できるでしょうか?
ほとんどの場合、契約書や最終支払日が分かる明細などの証拠は残っていないでしょう。
たまたま返済の明細が残っていても、それが最後のものかどうかは分かりません。
「下の子が小学校に上がってから返せなくなった。たぶん7年前だ」というように、さしあたっては、あなたの記憶に基づいて判断するしかないと思われます。
(備考5)弁護士が受任通知(=正式に債務整理の依頼を受けたという通知)を送ると、業者は債権調査票、取引履歴などを開示してきます。これにより、時効期間満了かどうか判断できます。
借金が時効になる条件として、時効援用が必要です。
時効援用(消滅時効の援用)とは、一言で言うと「借金は消滅時効で消滅したから返す義務はない。だから返さない」と主張することです。
時効援用をしない間は、借金は時効になっていません。例えば、借金を一括請求されたのが5年以上前で、その後ずっと貸金業者からの請求は一切来ていなかったとします。それでも、借金が自動的に消えているわけではありません。時効援用をしない限り、遅延損害金が膨らんでいき、借金はどんどん増えていきます。
時効援用は、書面でしなければならないという決まりはありません。しかし、時効援用したことを後で証明できるようにしておくべきです。その意味で一番確実なのは内容証明郵便です。内容証明郵便は、「こういう内容の書面をいつ業者に届けた」ということを明確にできるからです。1行20字×26行などというように形式が決められており、差し出しはインターネット上からも可能です(登録が必要です)
貸金業者から訴えられ、裁判所から訴状がまさしく今届いている場合があります。この場合、内容証明郵便ではなく「答弁書」などの書面を裁判所に提出して時効援用をします。内容証明を出したとしても、答弁書を出さず裁判に全く対応しないと、いわゆる欠席判決で原告の言い分どおりの判決が下されてしまいます。
第1審判決が出ていてもまだ確定していなければ、2週間以内に控訴して、控訴審で時効援用する余地もありえます。
ただし、控訴状・控訴理由書の作成提出や、印紙代・予納郵券代の納付が必要です。控訴審第1回口頭弁論までに貸金業者が訴えを取り下げてこない場合には、控訴審第1回口頭弁論に出頭する必要もあります(時効を認めて訴えを取り下げてくれば、出頭不要で終わることもあります)
たとえば「借金を貸金業者に最後に返済したのが5年以上前だと記憶している。内容証明郵便で時効援用をした」という場合を考えてみましょう。
調べてみると実際に最終返済が10年前で、内容証明郵便で書いた内容に不備もなかったとします。それでも、借金が時効にならないことがあります。それはどうしてでしょうか?
「判決が確定しており、消滅時効に必要な期間はそこから10年に延長されていた」という場合があります。
たとえば最終返済が10年前で、その4年後に判決を取られていたとします。
判決が確定すると時効期間は10年に延びますが、そこからまだ6年しか経っていません。借金の最終返済から5年経ってはいますが、10年の時効期間は満了しておらず、時効にはなりません。
「3年前の段階で、5年の時効期間が満了していた。その時は時効だと知らなかったので、消滅時効を援用せず、一部を返済した」とします。
そして後になって「よくよく考えたら時効だったからもう返さない」と言ったとします。この場合、時効は認められない可能性があります。
時効期間が満了している状態で一部を返済したということは、債務があると自ら認める行動をしたことになります(債務自認行為)。そのことで業者に「債務を返済してもらえる、消滅時効の援用はしないようだ」と期待させたのに、その後でやっぱり時効だというのは矛盾した行動です(最高裁S41.4.20判決)。そのため、時効が認められない可能性があります。
もっとも、時効期間満了後に債務自認行為をしたらそれだけで即ちにダメというわけではありません。色々な事情を考慮すると時効を認めるべきだ、と裁判所が判断してくれることもありえます。ちなみに、自認行為をしてからさらに消滅時効期間が満了すれば、その後から時効を援用することは可能です(最高裁S45.5.21判決)。
(備考6)時効期間「満了前」に債務を承認すると、時効期間がそれまでに4年11ヶ月が過ぎていたような場合でも、カウントはゼロに戻ります。カウントを数え直すことをH29改正前は「時効の中断」と呼んでいましたが、改正後は「時効の更新」と呼んでいます。
貸金業者が時効を認めれば、時効援用は成功ということになります。借金は時効で消滅しますので、返す義務は無くなります。
消滅時効援用が成功した場合、貸金業者から「時効なのでもう請求しません」という一筆をもらえるのでしょうか?
もらえる場合はあります。借金を返す義務はもうないという内容の和解書(ゼロ和解書)を取り交わすことができたり、残高が消滅したという書面が送られてきたりすることがあります(業者によります)。
しかし、もらえない場合もあります。むしろその方が多い印象です。貸金業者としては、ゼロ和解書を取り交わす労力や郵送費などをかけたところで、一銭の得にもならないからです。取り交わしができなくても、貸金業者が時効を認めた以上、あなたに請求してくることは無くなります。
当事務所の経験では、貸金業者が当事務所に時効を認める回答をしておきながら後でご本人に請求したというケースは、一度もありません。
(備考7)債権回収会社の場合、別債権を譲り受けて請求してくる可能性があります。たとえば消費者金融から譲渡された債権について、債権回収会社が時効を認めると回答してきたとします。その後に銀行から債権を譲り受けて、 その債権を請求してくることはありえます。
①訴訟を貸金業者から提起されている最中の場合はどうでしょうか?
裁判所から訴状が届いている場合に時効援用をする場合、答弁書などの裁判の書面ですることになります。貸金業者が「消滅時効が成立していることを争えない、裁判に負けそうだ」と考えた場合には、訴訟を続けてもコストの無駄ですので、訴えを取り下げたいと言ってくるかもしれません。
こちらとしては、たとえば「取下げに同意する代わりに裁判外でゼロ和解書を取り交わせ」と要求することも考えられます。
もっとも、時効を認めないなら訴えを取り下げるはずがありませんので、「取り下げてきたということは時効を認めるという趣旨だ」と判断して差し支えないようには思われます。
判決で裁判所が消滅時効を認めてくれる場合は、「原告(貸金業者)の請求を棄却する」という判決文が、借金が無くなったことを示す一筆となります。
②支払督促を貸金業者から申立てられている最中の場合はどうでしょうか?
支払督促に対して期間内に異議申立てをすると、簡易裁判所での通常の訴訟に移行します。
消滅時効を主張し、貸金業者が時効を認めるなら訴えを取下げてきて、裁判所から訴えの取下書が突然届くかもしれません。取り下げてきたということは時効を認める趣旨だと判断できることは、訴訟提起されている場合と同様です。
(備考8)原告が訴えの取下げをする場合、一定の段階までは、被告(訴えられた側)の同意は不要です(民事訴訟法261条)
貸金業者からの借金を滞納すると、いずれ信用情報機関に事故情報が載ってしまいます。いわゆるブラックリストに載ってしまう状態です。「時効ではないか」と思われるほど滞納を続けているのなら、事故情報が載っている可能性が極めて高いです。
借金の消滅時効を援用して、借金を業者に返す義務がなくなった場合、JICC(信用情報機関の一つ)であれば早期に事故情報が消える取り扱いのようです(JICCのHPを参照)。
ただし他の信用情報機関の場合、5年程度事故情報が載り続けることもあるようです。
もし消滅時効を援用しないと、基本的には、事故情報が載り続けてしまうことになります。時効援用の手続きをして、「いつかは事故情報を消してもらえる」という形にするほうが良いのではないかと思われます。
また、既に述べた通り、時間が過ぎただけで借金が自動的に消えることはありません。時効援用をしないかぎり、借金を返す義務は法律上残り続けていますし、滞納による遅延損害金も発生し続けています。
信用情報のことを気にする以前に、借金が日々増えていることを心配すべきようにも思われます。
(備考9)信用情報について詳しく知りたい方は、各信用情報機関のほうに直接お問合せください。
借金が時効にならなければ、残っていることになります。
残った借金の額によって、たとえば分割で支払うよう交渉したり、あるいは自己破産などを検討したりすることもありえます。
「時効が失敗するかもしれないのなら、借金は今までどおり放置しておこう」と思うかもしれませんが、そのうちに貸金業者が訴えてきたりする可能性があります。それでもなお放置していると、判決で「返済義務がある」と確定されてしまいます。
「早い段階で手続きをしておけば時効になっていたのに、判決が確定したのであと10年必要だ」という状況になる可能性もあります。
借金が時効になる条件は、消滅時効期間が満了したこと、消滅時効を援用したことです。
一見したところ時効に見えても、判決や債務自認行為などがあるため時効にならないこともあります。
「名の知れた大手消費者金融や債権回収会社から請求が来ているから、時効ということは無いのでは?」と思うかもしれませんが、実際は、有名企業・大手会社であっても、時効が成功することはよくあります。
もし時効になりそうだという自信(?)があっても、あなた自身が業者に連絡を取ると、意に反して債務を認めさせられたりするかもしれません。「自分で時効援用したが失敗し債務を認めさせられた」という相談者を、当事務所では実際に何人も見てきています。
時効援用は弁護士に依頼して進めましょう。
仮に時効が認められず債務が残った場合であっても、その整理をする方向で進めていくことも可能です(任意整理、自己破産など)
関連記事 時効援用:払わなくていい借金かも細かい話なのでごく参考までにと思いますが、平成29年民法改正前は、借金の消滅時効に必要な期間は民法、商法などで定められていました。「時効は民法では10年、商法では5年」と聞いたことがある人もいるかもしれません。貸金業者からの借金については、多くの場合商法が適用されて5年となっていました(例外的に信用金庫や信用保証協会など10年の場合もありました)。逆に5年より短い期間が定められているものもありました。
平成29年民法改正後は「債権者が権利を行使することができることを知った時から5年」か「権利を行使することができる時から10年」で消滅時効の期間が満了することになりました(改正後民法166条。商事時効についての規定(商法旧522条)も廃止されました)。改正民法の施行日は令和2年4月1日ですので、その日以降は原則として改正後民法が適用されます。しかし、それより前に借りた借金の場合、消滅時効の期間については改正前民法の内容によります。
附則10条4項「施行日前に債権が生じた場合におけるその債権の消滅時効の期間については、なお従前の例による」
実際問題として、借金をする場合は銀行、カード会社や消費者金融から借りることが多いでしょうから、借金をしたのが民法改正前でも後でも、どちらにせよ5年で消滅時効期間が満了することが多いと思われます。もっとも前述のとおり、民法改正前では信用金庫からの借金の時効期間は10年とされていましたし、常に5年で消滅時効となるわけではありません。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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