このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
たとえば「借金を2007年から10年以上払っていなかった。2019年に支払督促が簡易裁判所から届いたが、異議申立てをせず放っておいた。その結果、支払督促が確定してしまっていた」というようなケースが、たまに見受けられます。これはあくまでイメージしやすくするための例で、ここでは10年とありますが、業者からの借金は多くの場合5年で時効になります。その5年の時効期間が過ぎた後で支払督促が申立てられ確定してしまっていた、というわけですね。このような場合に、その後から時効援用をして「支払督促確定前の段階ですでに借金は時効だった。だから支払う必要はないし、その支払督促で強制執行は許されない」と言って争うことはできるのでしょうか?
結論からいうと、法律の規定からするとそのように言えるはずですし、当事務所が交渉した結果、複数の業者に時効を認めさせたこともあります。しかし、中には時効を認めてこない業者もありますので、訴訟で争っていく必要があるかもしれません。ちなみにこのような場合、あなた自身で対応しようとしても、業者は「支払督促が確定済みだから」と支払を強く求めてくるでしょうから、なかなか難しいと思われます。弁護士に依頼して対応することをお勧めします。
(備考)ちなみに時効期間満了前(5年が過ぎる前)に支払督促がなされ権利が確定すると、時効の更新事由となるため時効期間のカウントが振り出しに戻ることになります(民法147条)。さらに時効期間は10年に伸びます(民法169条)。新たに10年経過しないと時効になりません。
支払督促(民事訴訟法382条~)というのは、ごく簡単に言えば、簡易裁判所の書記官という人から請求書が送られてくる手続きです。業者が送ってくる請求書(ハガキ、手紙)と違うのは、支払督促の手続きが一定段階を超えると(仮執行宣言がつくと)給与差し押さえなどの強制執行が可能になる、という点です。業者としては、自分が送った請求書を無視されたとしても、いきなり強制執行はできません。しかし、簡易裁判所書記官を通じて送った支払督促が無視された場合には、仮執行宣言がついた後には強制執行ができるようになります。
支払督促が手元に届くと(送達されると)、そこには注意書や督促異議申立書が一緒に同封されていることがあります。注意書には、①支払督促は債権者(=業者。支払督促の申立人)が提出した書類だけを審査し、債務者(=あなた。申立てられた相手方)の言い分は聞いていないこと、②もし言い分があるなら督促異議を申立てることができること、③督促異議を申立てると、双方の言い分を聞いて裁判をすることになり、裁判所から呼出状・答弁書催告状などが送られてくること、などが書かれているかと思います。ここであなたが支払督促に対して督促異議を申立てないと、債権者の申立てにより仮執行宣言がつけられます。仮執行宣言がつくと、強制執行される可能性が出てきます。
(備考2)仮執行宣言がついた後でも2週間以内なら督促異議申立てができます(民事訴訟法393条)。しかし、支払督促の効力は失われませんし、その異議申立てだけで強制執行を止めることはできません。
仮執行宣言がついて2週間を過ぎると、もはや督促異議を申立てることはできません。すなわち支払督促が確定したことになります。そうなると「その支払督促で強制執行できる」という状態も確定することになります。しかし、支払督促が確定したからといって、(支払督促で請求されている)借金が存在していると確定されるわけではありません。支払督促確定というのは、「その支払督促で強制執行できることが確実になった」という意味であり、「その支払督促で請求されている借金が存在している」というお墨付きではないからです。
(備考3)支払督促は「確定判決と同一の効力」を有するとされています(民事訴訟法396条)。しかし、確定判決と確定した支払督促とが、全く同じように扱われるわけではありません。判決は、裁判官が、双方の言い分を聞き公平な裁判をして出すものです。しかし支払督促は、簡易裁判所書記官が、債権者の言い分のみを聞いて出すものにすぎないからです。裁判官が双方の言い分を聞いた上で出した結論ではありませんので、「借金が存在している」と確定するわけではありません。
支払督促確定というのは、借金が存在しているというお墨付きではありません。なので、「確定前に既に時効になっていた」と反論できる、という理屈になります。もっとも実際には、時効を援用しても、業者が「時効だとは認めない。強制執行も考えている」というように回答してくることもあります(時効を認める業者もいますが。)。そうなると、請求異議訴訟で争っていくことも検討しないといけません(次項参照)。
(備考4)判決で借金の存在が確定されたのなら、それは訴訟で裁判官が双方の言い分を聞いた上で出した結論です。(控訴せずに)判決が確定したら、借金(=判決記載の請求権)が存在していると確定されたことになります。その後になって上記のような反論はできません。
請求異議訴訟というのは、「強制執行を許さないと裁判所に宣言してもらう」という訴訟です。支払督促が確定すると強制執行される可能性が出てくるのですが、それを許さないと裁判所に宣言してもらうわけです。支払督促を取られた相手の業者を被告として、裁判を起こすことになります。
これまでの裁判例として、請求異議訴訟で勝訴した(=時効を認めてもらえた)裁判例もありますが、敗訴した(=時効を認めてもらえなかった)裁判例もあるようです。法律の規定からすると勝訴するのが自然だと思うのですが、とはいえ実際問題として負けた裁判例も存在しているようですので、その点は注意が必要です(裁判官といっても色々な考え方の人がいますし、簡裁の裁判官と地裁の裁判官ではまた違いがありえます)。
ここまでは業者が時効を争ってくるケースについて説明しました。しかし実際には、「示談交渉の結果、業者が自発的に時効を認めてくれた」という場合もあります。この場合も、「請求異議訴訟を提起して勝訴しない限り、その支払督促で強制執行される可能性がある」という状況には、実は変わりはありません。しかし、業者が自発的に時効を認めておきながら前言撤回して強制執行してくる可能性は、事実上ほとんど無いと言って良いかと思われます。
時効期間(多くは5年)が過ぎた後に支払督促を申立てられて確定してしまった場合でも、その後に「支払督促確定前に時効になっていたから支払う必要はないはずだ」といって争うことは、法的にみれば可能です。実際、当事務所が交渉して、複数の業者に時効を認めさせたこともあります。
しかし、交渉しても時効を認めない業者もいます。その場合は、請求異議訴訟で争っていくことになります。敗訴した裁判例も存在しているようですので、勝訴確実と安心していられるわけではありません。さらに言えば、もしこちらが勝訴しても業者から控訴される可能性も考えられます。
どちらにせよ業者としては、支払督促が確定したということで支払を強く求めてくるはずですので、あなた自身で対応しようとしてもなかなか難しいでしょう。そのため、経験豊富な弁護士に相談してみることをお勧めします。
このコラムの監修者
秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
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