このコラムの監修者
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秋葉原よすが法律事務所
橋本 俊之弁護士東京弁護士会
法学部卒業後は一般企業で経理や人事の仕事をしていたが、顔の見えるお客様相手の仕事をしたい,独立して自分で経営をしたいという思いから弁護士の道を目指すことになった。不倫慰謝料問題と借金問題に特に注力しており,いずれも多数の解決実績がある。誰にでも分かるように状況をシンプルに整理してなるべく簡単な言葉で説明することを心がけている。
期限の利益喪失とは、「借金残額を一括で払わないといけない状態」のことです。一括で請求されるのは、借金残額だけではありません。完済までの遅延損害金も上乗せされます。
金融業者から借入れをするとき、契約書を作ります。債務整理で任意整理をし、分割払いの交渉がまとまって和解が成立したときには、示談書(和解書)を作成します。
このように借金の分割払いを約束するときには、ほとんどの場合、「期限の利益喪失条項」が契約書などに記載されています(「期限の利益喪失約款」とも言います)。「期限の利益喪失となるのはどういう場合か」を定める条文が、契約書などの中で設けられるわけです。
(備考)借入れやカードを申し込む際の「カード会員規約」といったもの(約款)に書いてあることもあります。
期限の利益とは、一言でいえば「分割払いで構わない」という意味で、「期限が到来しないことによって、当事者が受ける利益」のことです。たとえば、「月末まではお金を返さなくて良い」・「月末に払うのは2万円でよい」というメリットのことです。
お金の貸し借りでいえば、特に何の約束もなければ、一括払いで返済することになります。
期限の利益がある場合(=分割払いの約束をした場合)は、返済期限が来るまで返済する必要はありません。返済期限までは借りたお金を自由に使えます。 お金をいっぺんに返す必要はなく、時間をかけて少しずつ返すことができます。
期限の利益とは、「分割払いで構わない」という意味でした。
期限の利益喪失とは、「返済猶予を失う=一括払いが必要」ということです。
債権者(貸主)としては、借主がお金を約束通りきちんと返してくれない場合には、「分割払いで構わない」とは言っていられなくなります。言い換えれば、期限の利益を与えてはいられなくなります。返済計画どおりにきちんと返済する人に対しては期限の利益を与えますが、返済が遅れた人に対しては、本来の期限を待たずに直ちに一括の返済を求めるのです。
期限の利益を喪失すると、返済猶予を失うわけですから、残額を一括で返済しなくてはならなくなります。さらに、完済するまでの遅延損害金が付加されることになります。
期限の利益を喪失するのは、どういう場合なのでしょうか。民法では、期限の利益を法律上当然に喪失する場合として、次の3つの事由が定められています(137条)。
こうした場合、債務者(借主)の経済的信用が低下しています。そこで、当然に期限の利益を喪失するとされているわけです。貸主としては、分割払の約束をしていた場合でも、「すぐに一括で返済せよ」と請求できるようになります。
債務整理をして、任意整理の示談(和解)を進めていくとします。債権者(貸主)からは、「示談(和解)契約の中に『期限の利益喪失条項』を設けてほしい」と要求されることが多いです。
期限の利益喪失条項は、「●回分以上の滞納があった場合には期限の利益を喪失する」といった条項のことです(「2回分」ではなく「2回」というような場合もあります)。具体例は次のとおりです。
たとえば、「任意整理の示談がまとまり、100万円を月々3万円ずつ返済することになった。今の残高は70万円だ。期限の利益喪失条項として、上記<例>がある」とします。
この場合、2回分=6万円以上滞納してしまうと、70万円を一括で返さなければなりません。債権者(貸主)から「一括で払え」と改めて言われなくても、条項に基づいて、当然に一括払いになります。
期限の利益喪失により、70万円を一括請求されるうえに、70万円を完済するまでの遅延損害金も加算されることになります(上記〈例〉では年14.6%)。
任意整理で滞納し、期限の利益を喪失すると、残額一括払いになりかつ遅延損害金が日々増えていきます。任意整理で利息をカットできていたとしても、意味が無くなってしまいます。
任意整理した後で滞納するとどうなる?どうしたらいい?期限の利益を喪失したら、債権者(貸主)が直ちに一括弁済を求めてくるのでしょうか?
必ずしも、そういうわけではありません。期限の利益を喪失した以上、債権者(貸主)としては、「一括で支払え」と求める権利があります。しかし延滞の程度が軽微な場合には、その権利を行使しないこともあります。「支払い期限より数日遅れてしまった」というような場合には、できるだけ早く支払いを再開し、その後期限に遅れないように気を付けましょう。
もっとも、軽微な滞納の場合であっても、すぐに一括弁済を求められることはあります。延滞期間が長くなるほど、そして滞納金額が多くなるほど、一括返済を求められるリスクは高くなります。
期限の利益を喪失しないように(=支払いが遅れないように)、日頃からよく注意しましょう。
期限の利益を喪失し、債権者(貸主)から一括払いの請求が来てしまったら、どのように対応すべきでしょうか?
請求された額を一括で支払えるのであれば問題ありませんが、多くの方は、すぐにまとまったお金を用意することは難しい状況でしょう。
債権者(貸主)から一括払いの請求が来ていても、弁護士が任意整理の交渉をしていけば、分割払いで示談(和解)できることもよくあります。分割払いの形に戻せるわけです。
任意整理をした後で期限の利益を喪失した場合でも、再度の任意整理で、分割払いの形にできることもあります。
債務整理の方法としては、任意整理以外にも色々あります。その中から、弁護士と相談のうえ、もっともあなたに合った方法をとることができます。
この記事では、期限の利益の喪失について、具体的な事例も交えて解説いたしました。
期限の利益喪失条項は、お金を分割払いしていくときには、契約書などに記載されていることが多いです。契約内容や返済予定をよく確認し、「突然一括返済を請求された!」という事態に陥らないように気をつけましょう。
期限の利益を喪失してしまった場合には、お早めに弁護士にご相談ください。任意整理を依頼すれば、分割払いの交渉をしていくことも可能です。
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